<東京の観光資源の発掘の必要性>
東京都の産業大分類別従業者数の構成比をみると、ほとんどの産業が観光関連産業であることが分かります。しかし、最近の観光のニーズの変化をみると、その形態は宿泊から日帰りへ変りつつあります。日本国民の宿泊を伴う国内旅行(観光白書による)は平成3年の実績の1人あたり3.06泊だったものが、平成16年には1人あたり1.92泊になり62.7%に減少したことが分かります。したがって、従来の大型温泉旅館で提供したものがレストランや日帰り温泉、ホテルの形で地域に広がることが分かりました。このような観光ニーズの変化によりゴルフ場・スキー場・旅館などの市場規模を縮小していますが、ホテルは市場規模を維持していることも分かります。
世界観光機関(WTO)の旅行者受入数の推計をみると東アジアや太平洋地区が7.7%で、最も大きいことが分かります。これは、日本がインバウンドをやらなければ生き残れないことを意味しているのでしょう。また、外国人訪問率上位都道府県をみると、全国訪問者の733万人のうち429万人が東京都を訪問し、140万人が京都府を訪問していることが分かります。しかし、東京が留学やビジネスが多い反面、京都は純観光者の数が多いことが分かりました。
このように、国際化に対応できないと生き残れないのが現実であります。減る日本人観光客を補うのは、外国人観光客であります。つまり、インバウンドの増大は日本経済の最重要課題の一つになるでしょう。東京観光の問題の重要なポイントは次の三つです。
1)観光まちづくり、魅力がある商業施設
2)日本語の壁の克服
3)日本文化の体験
これらは、きわめて重要な問題になります。東京には江戸からもの(建物)が少ないので 残っている生活様式といったものをどう発信するかということは重要なポイントとなりうるでしょう。
<観光のニーズの変化と観光まちづくりの考え方>
これまでの観光資源の考え方は、自然観光資源・人文観光資源・複合型慣行資源などに分けて考えてきました。しかし、ここでは観光施設は決まっているものではなく、観光と地域は結びついていることについて申しあげたいと思います。
また、これからは街づくりと観光に対するコンセプトがないとうまくいかないと考えています。JTBとJRと旅館・一部の観光施設からなる観光協会ではなく、実際の観光を支える農家、商店街など地域ぐるみの参加が必須になってきているのです。
1980年後半から1990年代の観光への取り組み状況をみると、東京都は大規模施設の建設 やハード整備、交通アクセスの改善などに力を入れ、区市町村も美術館などを建設し、全国各地ではリゾート開発をしました。観光施設を決まっているものとして開発したのです。しかし、2000年の国土交通省の観光政策審議会答申から、観光まちづくりの考え方が変わっていることが分かりました。要は、「観光客が訪れてみたい「まち」は、地域の住民が住んでみたい「まち」であるとの認識のもと、従来は必ずしも観光地としては捉えられてこなかった地域も含め、当核地域の持つ自然、文化、歴史、産業等あらゆる資源を最大限に活用し、住民や来訪者の満足度の継続、資源の保全等の観点から持続的に発展できる『観光まちづくり』」を推進すること」です。
最近は、日本の若い人が海外旅行にいかなくなっているので、旅行初心者層が全く増えていない現状です。ちなみに日本の出国率は13%で、一方、韓国や台湾の出国率は50%近い状況となっています。日本人がもっと海外へ行かないと国際的な相互理解が進まないと考えており、大きな改善の余地がある。
<大都市観光の特徴>
最近の東京都内の外国人訪問地をみると、皇居の訪問者が減少し秋葉原の訪問者は増加しているなど多様化していることが分かります。訪日外国人が進めたい都市は、「東京都区部」(2054件)「京都市」(922件)「大阪」(521件)の順です。外国人から見た東京の魅力とは「都市がエキサイティングで活気がある」、「ショッピングがエンジョイできる」ことですが、期待はずれだった場所もあって「東京都区部」が一位で「ごみごみして、人・車が多すぎる」という意見もありました。
東京は世界有数の大消費地・商業地であります。定番の新宿や銀座、渋谷、池袋のような商業地の人気がある観光地で、秋葉原などの個性ある商業地域も観光資源になっています。東京の商品は、全国、世界各地から集められたもので、東京産であることを必ずしも問わないこともポイントになります。
近年になって商店街が衰退している傾向をみせていますが、逆に活性化する商店街もあります。その多くは、問屋街から生まれましたが、各自特徴を持った築地、秋葉原、上野アメ横、神田、かっぱ橋、日暮里などがその例になります。また、これらの地域は千代田区・中央区・台東区・荒川区に位置していて江戸エリアに近いことも分かります。商店街活性化の取り組みには、地域連携を強化し、地域住民とのコミュニケーション強化(商店街の安全・安心宅配、共通カード、自転車対策等)をすることによる活性化と、来訪者を拡大し都市型観光(商店街の個性化、観光客誘致イベント、景観・アクセス改善)を目指す二つのパターンが考えられます。
新しい観光名所となる可能性を秘めている浅草橋の人形、ゼロから成長したもんじゃの街月島、建築が街を変えた代官山、おばあちゃんの街でターゲット集中の効果を得た巣鴨、すべてが街づくりから東京観光の可能性を見せてくれました。
このような都市の成長には次のようなパターンがみえてきます。
1)特定の個性で、特定の顧客層を集客
2)特定の顧客層を求めて特定の店舗が増加
3)同業種で激しい競争・質の向上
4)周辺に実験的な店舗が増加・多様性が拡大
5)特定の顧客層を求めて別の業種の店舗も増加
6)高い集客力
<外国人はどう思っているのか>
国際人のための江戸・東京文化講座(1.20)の桐谷エリザベスさんによると、日本の観光情報は単純直訳しているだけで、本当の文化を知るためには日本のガイドさんが必要であることを言いました。また、ガイドさんは歴史に詳しく分かりやすい説明ができる必要があるとも述べました。現在の旅行は多様化していて見るだけでは満足できず、現地で体験した驚くべきことやエピソードを友達に話したいと思うのです。
話は少し変わりますが、ここで居住国別訪日動機についてみます。欧米の人は日本人との生活や伝統文化・歴史的施設に興味を持って訪問し、東アジアの人はショッピングが目的で訪問することが多いことが分かりました。欧米の人は京都の訪問率が高くて、東アジアの人は新宿の訪問率が高いこともこれらを裏付けています。
<プロのガイドの必要性と仕事開拓>
基本的に外国人は日本語が分からないし、欧米人の観光客の9割は個人旅行でガイドもとっていません。しかし、通訳案内士の資格を持っていても、仕事がない人も多いのが現実です。また、ボランティアガイドとプロのガイドはその質が違います。
ここで、我らは新しい仕事の開拓の必要性を感じます。個人旅行者へのサポートやウオーキングツアーの検討(秋葉原、浅草での実験的な実施をしています)、リピーターを生むようなスキルをどう身につけるか、本当に知りたい情報をどのように楽しく的確に伝えるかがポイントになるでしょう。
<最後に>
京都観光が何故、再生・発展したのかも考えてみましょう。NPOのあいらぶKYOTOでは着物の着付けをしています。また、桐谷さんの話によると和菓子を作る経験は楽しかったしこういうものは大切だといっています。このような事例からも分かるように、スキルや技術の文化である江戸文化をもっと世界に発信するべきではないでしょうか。
取材・文章:村山、加瀬、寺本、ジョン
写真:日本文化体験交流塾、やまとごころ.jp