私は現在、九州北部を中心に通訳案内士の仕事をしています。3年近く前、関東から九州に移り、通訳案内士の仕事を少しずつ増やし、他にイベント通訳やインバウンド支援、それから最近は講演の仕事もいただき、全国を回っています。
        
        通訳案内士の方を対象にした講演では、仕事をどのように獲得するのかというテーマで、個人のスキルアップに焦点を当ててお話させていただくことが多いのですが、本日は少しアングルを変え、個性よりも地域性にウェイトを置いてみたいと思います。私は九州でツアーをしているので、九州を例にお話しますが、たとえば東京には特色豊かな街がたくさんありますから、ぜひご参考にされ、皆様の地域でお役にたてていただけたらと思います。
        
        
        
                  
        
        
        <九州のインバウンド事情>
        
        日本を訪ねる観光客の地域別割合をみると、関東66.3%、関西32.4%、中部21.8%、九州10.1%で、九州は他の地域と比べてまだマイナーな観光地であることが分かります。その中で九州を訪れる観光客の構成比をみると、韓国(60.4%)、台湾(16.6%)、香港(4.6%)などアジア圏を中心とした国からの観光客が多くなっています。また、その他にも様々な国から来る訪問客がいますが、アジア地域からの訪問客の中でタイやシンガポールなどから来る観光客の場合には、実は英語の需要があるのも特徴です。
        
        ではここで、九州の魅力についてご紹介しましょう。
        
        1)リゾート地のようなゆったりしたムード、余裕がある
        2)食べ物が美味しい
        3)様々なブランドが密集していて買い物しやすい(徒歩圏内に密集している)
        →理想のコンパクトタウン
        4)街がきれい
        5)九州の人は九州が好き(これがイチバンの魅力ですね!)
        6)街の中が混まないので、(予約なしの)着地型の観光が可能で、ギリギリでのプランの決定が可能
        7)ゆったり、やさしい街なので子連れツアーしやすい...
        
        などなど、九州は魅力いっぱいの地域です。
        
                  次に、なぜ人々はこの街に来るのかという理由を考えてみました。これは、仕事の合間に駅前や観光地、それに電車内などで外国人観光客に声をかけ、直接お聞きしたのですが、なかなかおもしろい答えが返ってきました。たとえば、友人の結婚式や息子が英会話の先生だから、日本の西洋化の歴史に興味があるから、温泉が好きだから、といったものです。また、既に訪問した方からは「人が優しい」(おもてなし)、「自然がいっぱい」など嬉しい感想もいただきました。しかし、九州は、東京や大阪などに比べ外国人向けの一次情報がまだまだ少ないため、ツアー候補地になりにくく、集まる人も少ないのが九州の現実です。
                  
                  
                  
                  
        <地域性、旬、個性を生かしたアプローチ>
        
        では、外国人観光客にもっと九州に来ていただくために、私たちは何ができるのでしょうか。様々なアプローチ方法があると思いますが、ポイントは「地域性、旬、個性」を最大限に生かすことです。
        
        たとえば、
        
        1)ビジュアルストーリーを提示し、思わず行きたくなるようにする
        2)そこだけのものを提供する
        3)頼りになる人がいるという安心感を与える
        4)ある程度の時間(何時間、日、泊など)があったら、このようなことをすることができるという情報の提供→豊富な行動パターンを提示
        5)いつがベストシーズンなのか?桜の時期もいいけど...。
        →四季それぞれの魅力を伝える
        6)何気ない会話から商談が成立する、潜在的需要を引き出す
        →仕事は意外なところから舞い込んでくるもの
        7)パンフッレットの写真はリアルタイムではない
        →地元の人が読むものや、自分が撮った写真を提示することは効果的
        
                  
       
                8)旅のイメージづくりをする→地図などのイメージを使って案内する
                  9)観光協会の人とのネットワークを形成し、地域との連携をはかる
                  10)オーダーメイドのツアーを作る
                  11)ITを活用する
                  12)Face to Faceの付き合いが必要
                  13)得意の分野を特化してアピールする(地域に詳しい、日本文化に詳しい)ことにより自分らしさをアピールできる
                  
                  というようなことができます。英語サイトを作るといった、不特定多数に向けた情報発信ももちろん大切ですが、まずは直接触れ合うお客様に九州の更なる魅力を自らの言葉で伝え、また来ていただく。あるいは口コミでご家族やご友人に伝えていただく・・・という方法が、古典的に見えて、実はいちばん有効ではないかと思うのです。また、アプローチはあくまでヒトを主体とし、ITを媒体として活用することで、より一層効果を高められると思います。
                  
                  
                  
                  <インバウンド、もっとこうなったら...>
                  
                インバウンドにおいては、改善すべき点が幾つもありますが、通訳案内士の問題もその一つです。たとえば国土交通省は通訳ガイドの検索サービスを提供しています。しかし、通訳案内士の数が東京や関西など大都市圏に隔たっていることや、キャンセルやノーショーに対する対処、料金の確実な受領や契約の難しさ等が、課題になっています。
                    
                  このような問題を抱える通訳案内士が生き残りをかけ、旅行会社様を始めとした業界の方々とWIN×WINの関係を築き、インバウンド・ツーリズムの質を向上させていくには、どのような方法が考えられるでしょうか。
                  
                  1)インバウンド企業や先輩、仲間を連結する
                  →最終的には「人」が大事なので、このような人脈を活用
                  2) 海外情報発信メディアを利用(写真などのビジュアルの活用が大事)
                  3)内部だけではなく外からの目も必要(外からの意見を出来るだけ吸収する)
                  4)仕事単価を上げることと共に質も上げる、さらにメニュー化する
                  5)ビジネスモデルの多角化
                  (たとえば地元エージェント様とコラボして地産地消のツアー実現!
                  
                  既存のガイドの仕事は、
                  
                  「クライアント→海外の会社→国内の会社1(→国内の会社2)→ガイド」
                  
                  のようなプロセスでいただくことが多いかと思います。
                  しかし情報化が進み、ガイドからツアー依頼が入るケースも増えつつある今日、ガイドがツアーの窓口になり、必要に応じエージェント様と共同でツアーを企画していく、といったケースも今後ますます増えていくことと思います。
                  たとえば、「クライアント→ガイド&地元の会社」のような手順になると、お客様は自分に合ったガイドを選ぶことができ、小回りもきくので、低コストのツアー作りが実現します。
                                    
                  このように地元の人が地元の観光を作り上げれば、結果として、地域活性化にも貢献できるのではないでしょうか。また、その際に自己満足や内輪受けではなく、外からの視点をもつことが大切だと思います。そして、Local people know what's the best。地元の人が本当に素晴らしいと思う地域の魅力を、 外国から訪問されるお客様にも体験していただけたら、かけがえのない、とっておきツアーがきっと実現すると思うのです。
                  
                  
                  
                  
                  
                  最後に、今回の講演におきまして、元JNTO理事・安田彰様、JTIC.SWISS所長の山田桂一郎様にご助言いただきましたことを、紹介させていただきます。どうもありがとうございました。
                  
                  
                  
                  取材・文章:村山、加瀬、寺本、ジョン
                  写真:日本文化体験交流塾、やまとごころ.jp