地域の魅力徹底研究セミナー

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◆「旅行商品の開発における地域資源の活用」
清水 愼一氏(株式会社JTB 常務取締役)

私が今一番取り組まなければならないと考えているものは、「街づくり」です。

これからの観光をやっていこうと考えると、キャンペーン的なものより長期的視点を持って街づくりに励むべきであると考えます。これまでは、地域資源と関係ないイベントや一過性のキャンペーンなどを開催する傾向がありました。
しかし、現状を打開するためには、何十年もかけて街づくりをやりなおすことが必要と考えています。

また、街づくりは行政主導ではなく、市民が中心となって推進することが重要です。現在、20近くの地域を支援していますが、ある地域では、住民200名ほどがワークショップを行い、意見交換をしています。「行政に期待できない」と考えると住民は本当に色々考えています。そこでは、市民が皆でお金を出して、特産物を作って、「街づくり会社」を作ろうとしていますが、私は「10年はかかるよ」といって支援している状況です。

次の関心事は「人材育成」です。
まだまだ日本では観光振興を担える人材の輪が広がっていません。また、ボランティアが中心となっており、ビジネスモデルになっていない現状です。そのため、補助金がついている間は問題ありませんが、補助金が切れると完全に止まってしまうケースが非常に多いです。地域にはビジネスモデルを考えられる人材がいないのが現状です。そういった人材を育成するためには、継続的に体系だった観光を勉強する必要があると考えています。


清水氏画像


私は2年前にパリ大学に勉強に行きました。そこでは歴史、インフラ問題、景観問題を学ぶことが必須になっています。「これらを知らないと観光に携わってはいけない」という状況になっているのです。最近になって日本においても歴史の街づくりという形で、施策が出てきていますが、まだまだそれぞれの活動が点の状況であります。
担当がよく変わる行政や費用が掛かる外部コンサルタントに頼らず、地元で地域を振興できるようにしていくことが、今後の地域振興において非常に重要になるでしょう。

国内観光の消費は1990年代に比べ、概ね3割減になっています。海外旅行者数も今年は毎月前年比1割減の状況です。特に若い人の旅行が減ってきています。
さらに毎年旅館は100件以上減ってきています。旅館は倒産しても撤去できないので、それが大きな問題になっているのです。観光客数(入込人員)で見ると横ばいになっている地域が多いのですが、観光消費額で見るべきだと思います。観光消費額で見ると、大きく下がっている地域が多いからです。
今後は、日帰りのお客様はカウントせず、多くの消費をしてくれる宿泊客だけをカウントする方法にした方が良いと考えています。

また、これからは街づくりと観光に対するコンセプトがないとうまくいかないと考えています。JTBとJRと旅館・一部の観光施設からなる観光協会ではなく、実際の観光を支える農家、商店街など地域ぐるみの参加が必須になってきているのです。

これらの背景として、消費者の目が肥えてきたという事実があります。1993年をターイニングポイントに団体が減り、個人そしてリピーターが増えているということがわかります。JTBの売上が伸びなくなったのも1993年からで、まさにそのタイミングで団体が減少しはじめました。
このときに投資をした旅館が多くつぶれてしまいました。近年はリピーターが増えてきているので、初心者を相手にする旅行は長くは続かないと思います。リピーターを増やすクオリティのものでないと人気のある旅行の確保は出来ません。そのため、新規客を呼び込むための一過性のプロモーションなどは、大きな意味を成さなくなると考えています。

最近は、日本の若い人が海外旅行にいかなくなっているので、旅行初心者層が全く増えていない現状です。ちなみに日本の出国率は13%で、一方、韓国や台湾の出国率は50%近い状況となっています。日本人がもっと海外へ行かないと国際的な相互理解が進まないと考えており、大きな改善の余地がある。




また、日本に来る外国人旅行者についても、アジア圏から来る方を中心にリピーターが増えていきている状況です。現在、サブカルチャーなどオタク文化が脚光を浴びていますが、私は江戸文化がベースになると考えています。現在、JTBGMTの顧客は欧米人が中心です。アジア圏の顧客はまだ熟していない状況であります。

インバウンドについては、最近では高山を観光ルートに入れる必要があると考えており、ニューゴールデンルートとしてツアー商品に組み込んでいます。
また、祖谷も人気が高く2位になっています。こちらは、東洋文化研究家のアレックス・カーの情報発信力によるところが大きいと思われます。

旅行者の傾向として、ビギナーはできるだけあちこちを回り、リピーターは滞在しながら周りをふらふらと歩く傾向があります。また、日本で言えば、温泉といった目立った観光資源がなくとも、歴史と食があれば十分観光客をひきつけることができます。ただ、食については、今やもう、地元のものしか選ばなくなっています。地場産の食材をつかっているかどうかが重要であり、地元の食材であれば、2割くらい高くてもいいという統計も出ている状況です。

また、現在は世界遺産ブームになっていますが、石見銀山は昭和30年から街づくりをやっており、交通規制と地元のガイドで対応する体制をうまく構築しています。観光客は6キロの道のりを歩きますが、地元の方やお年寄りなどが車を使うようになっています。
一方、白川郷では、交通規制がうまくいきませんでした。世界遺産登録後に自分の家を売って、駐車場にしたところが多いのです。一旦、駐車場にしてしまうと交通規制には抵抗を示すのは明らかであるように見えます。世界遺産に登録される前に、そのあたりのルールを作っておく必要があると考えています。
函館では魚市場を観光客向けにきれいにしたとたん、観光客が減ってしまいました。現地のJTBスタッフも「地元の人がいく魚市場はどこですか?」と観光客に聞かれることもありました。観光客のための市場には観光客は行かず、現地の人が行く市場に行きたがるのです。これが観光客の気持ちではないかと思います。

また、これからの観光は、市民・農協・大学・自然景観・学校・商店街、そして地元のおじいちゃん・おばあちゃんなど様々な要素が必要不可欠になってくると思います。高齢者問題というべきではなく、おじいちゃんの昔話、おばあちゃんの作った食事がその地域の重要な観光資源になってきます。そのため、そういったお年寄りが住みやすい町を作っていくことが行政の仕事であると考えています。
これまでは旅行会社が儲かるためには、「標準化」が欠かせませんでした。多くの旅行パッケージを作り、それを1万人、2万人に売ることで利益を出すことがビジネスモデルなのです。旅行者の目が肥え、個人旅行が増えた現在の「一人十色」の旅行ニーズに、総合旅行会社は対応できないのが現状であります。そこでJTBではどうしていくかという議論を重ねているところです。


月旅行


また、長崎さるく博の取り組みも素晴らしいと思います。700万人以上もの観光客を集め、余計なイベントは不要で長崎の「町歩きこそが観光資源」として、マップを作り、ガイドをつけ、様様な町歩きプログラムを提供しています。
後にJTBの取り組みを少し紹介すると、最近は「シニアサマーカレッジ」というものを行っております。地方の大学でシニア向けに勉強会を行うもので、2週間で13万円+α(宿代、食費など)で50万程度かかるプログラムになっています。夏休みなどは教授も時間がありますし、場所もあるので、こういった取り組みを行う大学が非常に増えてきています。
その他、ヘルスツーリズム、ドライブ観光や宇宙旅行(24億円)なども手がけている状況です。

小布施は20年、湯布院は40年という長い時間をかけて一生懸命街づくりに取り組んで来られました。短期的な視点ではなく、そういった長期的視点に立って時間をかけてやっていかなければならないと思います。
おそらく、自分が生きている時代には成果があがらないかもしれません。しかし、私達の子供たちの時代に成果が上がり、まさに住んでいて本当によかったと誇りに思う街づくりをすることが観光振興であると考えています。


取材・文章:村山、加瀬、寺本、ジョン
写真:日本文化体験交流塾
 


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